お化けはこわい?
古来、人びとは山や川などの自然や動植物に不思議な力を感じ、その力を敬い、こわいものとして恐れてきました。自然は人びとに豊かさをもたらしてくれると同時に、命をも奪う恐ろしい存在でもありました。「幽霊」「妖怪」「お化け」は、人びとの不安や恐れ、あるいは願いと強く結びつき、人びとの心から生まれ、言い伝えられてきました。日本の「幽霊」「妖怪」「お化け」を知ることは、日本人の心や当時のくらしを知ることにつながるでしょう。
ところで、「幽霊」「妖怪」「お化け」は同じものなのでしょうか。すべてがこわいのでしょうか。「幽霊」は、世界中で共通する部分が多いようです。だいたい死後の人間の霊が現れたものです。生きていた時の姿で現れ、肉体がなくなった後も「生き続けたい」という願いから生まれています。「幽霊」と同じような意味の言葉は、世界中にあります。例えば、英語の場合は「ゴースト(ghost)」が「幽霊」に当たります。日本の「幽霊」の場合は、この世に未練や恨みがあるため、因縁のある人の前に現れるので、こわい存在と言えるでしょう。一方、現在「妖怪」と言われているものは、江戸時代(1603-1868)には「化け物」とか、「お化け」と言われていましたが、「妖怪」と同じような意味の言葉を他の国の言葉で探すのは、難しいようです。
日本民俗学の父、柳田國男(1875-1962)は、人びとが心の中に描いている「お化け」を「妖怪」としました。そして、「妖怪」、つまり「お化け」と「幽霊」の違いを、現れる場所、相手、時間の3点から分類しています。それによると、「1.妖怪は出る場所が決まっているので、その場所に行かなければ、出会わない。しかし、幽霊は向こうからどこへでもやって来る」「2.妖怪は相手を選ばないが、幽霊は相手を選ぶ」「3.妖怪は主に夕暮れに現れるが、幽霊は丑三つ時、つまり午前2時ごろに現れる」としています。