日本人が自分の国の名を呼ぶとき、「にっぽん」と言う人と、「にほん」と言う人がいて、不思議に思ったことはありませんか。
地名でも、東京と大阪に「日本橋」というところがありますが、東京は「にほんばし」、大阪は「にっぽんばし」と読みます。
千円札は裏に「NIPPON GINKO」と書かれています。これは「にっぽんぎんこう」と読みます。お札を発行している「日本銀行」は「にっぽんぎんこう」が正式の名前です。
現在の千円札の裏にあるNIPPON GINKO
「日本酒」「日本料理」は、「にほんしゅ」「にほんりょうり」です。
では「日本」の呼び方は「にっぽん」と「にほん」、どちらが正しいのでしょうか。結論から先に言います。「にっぽん」と「にほん」、どちらを使っても間違いではないのです。文字で書けば「日本」と1つだけなのに、呼び方が2つある国なんてあまりないかもしれません。
「にっぽん」と「にほん」は、かなり古い時代から両方使われていたことがわかっています。16世紀の後半から17世紀の初めにかけて、キリスト教を広めるために、多くの宣教師がポルトガルやスペインからやって来ました。
スペインから来た宣教師
宣教師たちは、日本語を学ぶために、自分たちの国の言語で日本語の意味や使い方を説明した辞典を編集しました。その一つにイエズス会(Society of Jesus)の宣教師が編集した、『日葡辞書』と呼ばれる辞典があります。「葡」はポルトガルのことで、1603~04年に刊行されました。その辞典に、
「Nippon」「Nifon」
と書かれています。
「Nippon」は「にっぽん」、「Nifon」は「にほん」と読めます。
日葡辞書
なぜこのように昔から「にっぽん」「にほん」とふたつの呼び名があったのでしょうか。「日本」の「日」という漢字は「にち」と読み(「じつ」とも読みます)、「本」は「ほん」と読みます。古い時代には、この「にちほん」を「にっぽん」と言っていました。ここからいつのことかわかりませんが、やわらかな言い方の「にほん」という言い方が生まれ、そのまま両方が使われていたようです。
日本政府は、この「にっぽん」と「にほん」のどちらが正式かという問題について、2009年にある決定を下しました。それは
「『にっぽん』『にほん』という読み方は、いずれも広く通用しているので、どちらか一方に統一する必要はない」
というものです。「日本」の読みはどちらでもいいと、国も認めたのです。
ところでいい機会ですので、最後に「日本」という国名について解説しておきます。
「日本」と書くのは、中国の東にあり、中国から見て太陽(日)ののぼる本の国だからという説があります。また、日本の古い国名は「やまと」と言いますが、この「やまと」の前に「日の本の」という言葉がついて「日の本のやまと」と言うことがありました。その「日の本」から「日本」になったという説もあります。「やまと」は「大和」と書くこともあります。
結局、日本の国名は、「にっぽん」と「にほん」のどちらでもよく、なぜ「日本」なのかもよくわからないということになるようです。
文:神永曉
写真:フォトAC、パブリックドメイン
(2022.7.8)