備前焼

今回は備前焼をご紹介します。
備前焼は岡山県備前市を中心に作られている焼き物です。

ゆう薬という色をつける薬を使わず、絵もかかない、シンプルな焼き物です。とてもかたくて「投げても割れない」と言われるほどです。1982年に国の伝統的工芸品(Traditional Craft Industries)に指定されています。






備前焼で飲むとビールがおいしくなると言われます。なぜでしょうか。ゆう薬を使わないところにその秘密があります。
ゆう薬を使わないと、表面に、目に見えない、とても小さなでこぼこができます。そのでこぼこでビールの泡がよりなめらかに、そして消えにくくなります。その泡が蓋のようになってビールの香りを逃がさないため、ビールがおいしく感じられるのです。ビールだけでなく、コーヒーも苦みが少なくなり、やわらかい味になります。


焼き物は窯の中で焼くと色が変わります。これを窯変といいます。窯の中での置き場所、温度の変化などで、色や模様が決まります。備前焼には、いくつかの有名な窯変があります。

●胡麻
作品の表面に灰が付いて、食べ物の「胡麻」のような模様ができます。色は白、黄色、青などがあります。

●緋襷
襷は着物のひもです。植物の藁をまいて焼くと、ひものような線の模様ができるので、「緋襷」といいます。色は赤や茶色、朱色などです。

●桟切
作品が灰でおおわれ、空気の流れが悪くなることで色が変わり、模様ができます。

では、備前焼の歴史を見てみましょう。
日本には日本六古窯と言われる、古くからの焼き物の産地があります。越前、瀬戸、常滑、信楽、丹波、備前の6つです。その中でも備前焼は最も古くて、古墳時代(5世紀ごろ)の焼き物の作り方が変化し、平安時代(794年~1185年)の終わりごろに備前焼が始まったと言われています。その後、江戸時代の終わりごろに京都や佐賀県の有田などで磁器が盛んに作られ、ブームになったため、備前焼は人気がなくなってしまいました。明治時代(1868年~1912年)から昭和時代(1926年~1989年)の初めごろまで厳しい時期が続きました。しかし、1956年に金重陶陽(1896年~1967年)という人が国の重要無形文化財保持者(人間国宝、living national treasure)に指定されました。金重陶陽は作品を作るだけでなく、多くの陶芸家を育て、備前焼の復活に大きな役割を果たしました。
現在では、伝統的な備前焼だけでなく、さまざまな新しい焼き物も作られています。
■備前市美術館(旧備前焼ミュージアム)
文:新階由紀子
画像:写真AC
(2025.10.10)