ワシとタカ
ワシ、タカとよばれる鳥がいます。小さな鳥や小さな動物をつかまえて食べる、大きな鳥です。ふつうワシ、タカと区別してよんでいますが、とてもよく似た性質をもっていて、とても近い種類だと考えられています。大形のものをワシ、小形のものをタカとよぶこともありますが、これも厳密な区別はありません。
ワシもタカも、くちばしの先端は鋭く曲がり、足には大きなかぎのようなつめをもっています。このつめでほかの鳥や動物をつかまえるのです。
日本にすむワシの仲間には、イヌワシ・オオワシ・オジロワシ・カンムリワシといった種類があります。タカはオオタカ・クマタカ・ハイタカ・ノスリ・チュウヒ・トビなどです。
ワシやタカがつかまえていたのは、鳥や動物だけではありませんでした。人間の赤ん坊がつかまえられてどこかにつれていかれたという伝説が、いろいろな国にあります。日本でもそのような伝説が各地に残されています。
有名なのは奈良時代(710~784年)に奈良の東大寺を開いた良弁の伝説です。一説では、良弁は2歳のときに母親が良弁を木陰に置いたところ、突然空から舞い下りてきた大きいワシにさらわれてしまいます。赤ん坊の良弁は奈良の春日大社まで運ばれ、杉の木の根元に置き去りにされたそうです。そのときたまたま通りかかった義淵というお坊さんに助けられ、やがて良弁は立派なお坊さんになり、のちに、良弁は観世音菩薩という仏の力によって母親と再会できたという話です。奈良東大寺にある二月堂の下には、赤ん坊の良弁が根元に置き去りにされた杉だという良弁杉があります。現在の杉は奈良時代のものではありませんが。
東大寺二月堂
ワシやタカは、足にある大きなするどいつめでほかの鳥や動物をつかまえます。でも、そのつめをいつも見せていると、つかまえようとする鳥や動物に逃げられてしまいます。そのようなことから、「能あるタカはつめをかくす」ということわざが生まれました。本当に実力のある者は、その実力を発揮する必要のないときには、それを見せびらかしたりしないという意味です。
また、タカの仲間にトビという鳥がいます。トンビともいいます。ピーヒョロロと鳴きながら羽を広げて、空高く輪をえがいて飛ぶ鳥です。漁港のある所や市街地でも見かけることがあります。このトビは、地上にあるえさを見つけると、急降下して足のつめでつかんでえさを持って行ってしまいます。今でも観光地などで、観光客が手に持っている食べ物を持って行ってしまうことがあります。
トビのこのような性質から、「鳶に油揚げをさらわれる」ということわざが生まれました。突然わきから大事な物をうばわれることのたとえです。「油揚げ」はうすく切ったとうふを油であげた食品です。
また、「鳶が鷹を生む」ということわざもあります。とくにすぐれた点のない親が、すぐれた子を生むことのたとえです。トビはタカとちがってすぐれた鳥ではないと思われていたのです。それは、トビは死んだ動物を食べたり、「油揚げ」をうばうかどうかはわかりませんが、人の食べ物をわきからとったりするので嫌われていたからなのでしょう。
文:神永曉
画像:写真AC/東大寺
(2025.10.24)