日本料理の中で何が好きですか、と聞かれたら、「すし」と答える人は多いでしょう。
日本人も「すし」が大好きです。「すし屋」という「すし」を食べさせる店もたくさんあります。
この「すし屋」ですが、店の名前に付けられた「すし」の部分を店でよく見てください。「すし」だけでなく、「鮨」「寿司」「寿し」「鮓」といろいろな書き方をしているはずです。どれも「すし」と読みますが、それぞれの漢字はもとの意味が少しずつちがいます。
「すし」という語は日本の平安時代(794~1185年ごろ)からありました。その時代の辞書には「鮨」「鮓」と書かれていて、「須之(すし)」と読むと書かれています。ただそれは、現在ふつうに店で出される「すし」とは、作り方も形もちがいました。
「寿司」「寿し」と書くようになったのは、明治時代(1868~1912年)になってからです。「寿」という漢字は、とてもおめでたい意味をもつ漢字なので使われたようです。「司」という漢字には特に意味はありませんが、「し」と読む漢字だから使われました。「寿し」と、「し」をひらがなで書くこともあります。
「すし」を店の名前に使うとき、もしかすると「すし」の書き方は地域によってちがいがあるのではないかと考えて、電話帳を使って調べた人がいます。早稲田大学教授の笹原宏之さんです。
笹原さんによりますと、日本のどの地域でも、「寿司」という書き方がいちばん多いそうです。でも、北海道、富山県、石川県、福井県、島根県、山口県、香川県、徳島県、愛媛県、高知県、佐賀県では「寿し」と書く店が多くあるそうです。「鮨」は、このように書く店が特に多い地域はないのですが、どちらかと言うと、東日本のほうが西日本よりも多いそうです。「鮓」と書く店は全国的に多くはありませんが、奈良県、京都府、大阪府は、ほかの地域にくらべて多いそうです。
もしすし屋に行く機会があったら、ぜひ確かめてみてください。
「すし」の書き方の地域差
ところで「すし」は、現在では「にぎりずし」とよばれているものが主流です。これは、にぎって小さくかたくしたすし用のめしに、魚や貝などをのせたものです。この「にぎりずし」が生まれたのは19世紀の初めごろで、当時江戸とよばれていた今の東京で、とても流行しました。
にぎりずし
ところが、日本のもう一つの大都市である大阪では、「にぎりずし」の店はできましたが、あまり流行しませんでした。そのかわり、「むしずし」「おしずし」とよばれるすしが食べられていました。「むしずし」はいろいろな具(材料)をすし用のめしとまぜて、熱い湯気を当てて食べられるようにしたものです。「おしずし」は、木の入れ物の中にすし用のめしを入れ、その上に具をのせて押してつくったすしです。今でも大阪などでは、「むしずし」「おしずし」の店がかなりあります。同じ「すし」でも、東京と大阪ではちがうものをいうことがあるのです。
むしずし
おしずし