日本語多読道場 yomujp
「するめ」という食べ物を知っていますか。イカをたてに切って内臓(ないぞう)を取(と)り、開いた形(かたち)でほした食べ物のことです。お店では、これを縦(たて)に細(ほそ)く切ったものも売っています。お酒(さけ)を飲むときのおつまみにすることが多い食べ物です。
イカ
するめ
細(ほそ)く切られたするめ
この「するめ」を、「あたりめ」と書いて売っていることがあります。同じものなのに、どうしてよび名がちがうのでしょうか。
それは、「するめ」の「する」という音(おん)を避(さ)けたからです。「する」は、すってへらす、つまりお金を使ってなくしてしまうという意味の「する」と同じです。そのためいい意味ではないと考えて、べつの言い方にかえたのです。「あたりめ」だと、「あたり」は思った通りになる、うまくいくといういい意味の語なのです。
「ナシ」というくだものがあります。日本の「ナシ」はリンゴのような形(かたち)をしたうすい茶色の実(み)です。この「ナシ」の実(み)を「ありのみ」と言います。「ナシ」は、無(な)いことという意味の「無(な)し」と同じ音です。そのため、「ナシ」だと無(な)くなるという意味になってよくないと考えたのです。そこで、存在(そんざい)するという意味の「あり」にしたのです。
「ナシ」とも「ありのみ」とも言う
「すりばち(摺り鉢)」という料理で使う道具(どうぐ)があります。ゴマや味噌(みそ)などをすってつぶすときに使うものです。土を焼(や)いた焼(や)き物でできていますが、上が大きく開き、内側(うちがわ)に細(こま)かなギザギザの目があります。これも「あたりばち」と言うことがあります。「すり」がうしなう、なくすという意味だからです。「するめ」→「あたりめ」と同じです。
すりばち
すりばちでゴマをする
髪(かみ)の毛(け)やひげを、かみそりを使ってきれいに切って落(お)とすことを「そる」と言いますが、これを「する」と言う人がいます。これも、「する」と言うのをさけて、「ひげをあたる」と言います。
お祝(いわ)いの会や、何かの集まり、芝居(しばい)などで、それが終わることを、「お開(ひら)き」と言います。これも、ふつうは「会が終わる」「幕(まく)が閉(と)じる」などと言うところですが、「終わる」「閉(と)じる」という語を使うのはよくないと考えたのです。「終わる」はあとがないわけですし、「閉(と)じる」もふさいでしまうという意味になるからです。「お開(ひら)き」ですと、一旦(いったん)終わりにするが、また次(つぎ)につなげるという意味になります。
会が「お開(ひら)きになる」
植物(しょくぶつ)にも、もともとの名前をさけて、別の呼(よ)び名になったものがあります。「アシ(葦)」です。「アシ」は沼(ぬま)や川の岸(きし)にたくさん生えている、細(ほそ)長い葉(は)の背(せ)の高い植物(しょくぶつ)です。これも、「アシ」は悪いことという意味の「あし(悪し)」につながると考えたのです。よいことという意味の「善(よ)し」にかえて、「ヨシ」と呼(よ)ぶようになりました。
アシ(ヨシ)
このように「するめ」を「あたりめ」のように言った語を、「いみことば」とよんでいます。「いみ」は、よくないことをさけるということです。
昔(むかし)の日本人は、こうしたよくないことがおこるように感(かん)じられる語を、できるだけさけようとしたのです。
文:神永曉
写真:写真AC
(2023.3.28)