日本語多読道場 yomujp
すもうを見たことはありますか? 裸(はだか)でまわしをつけた力士(りきし)とよばれる二人が、土俵(どひょう)という競技場(きょうぎじょう)で戦(たたか)う競技(きょうぎ)です。相手(あいて)をたおしたり、土俵(どひょう)の外に出したりすると勝負(しょうぶ)が決(き)まります。
まわしをつけた力士(りきし)
土俵(どひょう)
すもうは日本で古くから行われていました。奈良(なら)時代(じだい)(710-794年)の歴史書(れきししょ)(歴史(れきし)が書いてある本)である『日本書紀(にほんしょき)』にも書かれています。日本人はむかしからすもうが大好(だいす)きでした。そのため、日本語の中にはすもうから生まれた語がたくさんあります。
たとえば、「ガチ」という語を聞いたことはありませんか。真剣(しんけん)にとか、まじめにといった意味で、若(わか)い人が使う語です。「ガチで頭(あたま)にきた」「ガチで戦(たたか)う」などと使います。最近(さいきん)は「ガチ中華(ちゅうか)」という語もあります。日本人向(む)けの味にはなっていない、中国と同じ味の中華(ちゅうか)料理をいいます。
この「ガチ」はすもうから生まれた語です。もともとは「ガチンコ」という語でした。「ガチンコ」は、すもうの世界で使われていた語で、対戦(たいせん)する二人が真剣(しんけん)にぶつかり合(あ)って勝負(しょうぶ)することを言います。二人が戦(たたか)うために相手(あいて)とぶつかったとき、頭(あたま)と頭(あたま)がぶつかってガチンと音がすることから生まれた語だといわれています。これが一般(いっぱん)にまで広がって「ガチンコ勝負(しょうぶ)」のように使い、さらに「ガチ」の形(かたち)でも使われるようになったのです。
戦(たたか)うために頭(あたま)と頭(あたま)がぶつかる音から「ガチンコ」と言う
「ガチンコ」「ガチ」に対(たい)する語もあります。「八百長(やおちょう)」です。この語もすもうの世界から生まれた語です。
明治(めいじ)時代(じだい)(1868-1912年)に、みんなが八百長(やおちょう)とよんでいる、八百屋(やおや)の長兵衛(ちょうべえ)さんという人がいました。この長兵衛(ちょうべえ)さんは、あるすもうの親方(力士(りきし)を引退(いんたい)した後で指導(しどう)者になった人)とよく碁(ご)を打(う)ちました。そして、長兵衛(ちょうべえ)さんは親方よりも強かったのに、勝負(しょうぶ)をおもしろくするために、いつも一勝一敗(いっしょういっぱい)になるようにしたというのです。
碁(ご)を打(う)つ
このことから、すもうで勝負(しょうぶ)の前にどちらが勝(か)つか決(き)めておいて、真剣(しんけん)に戦(たたか)っているように見せることを、「八百長(やおちょう)」と言うようになりました。もちろんこれはやってはいけないことです。ただ、この「八百長(やおちょう)」という語は、すもう以外でも広く使われるようになったのです。
ほかにもすもうから生まれた語はたくさんあります。
「あげ足をとる」は、話をしている人がまちがって言ったときに、そのまちがえて言った部分(ぶぶん)をからかったり、特に取(と)りあげて言ったりすることです。「あげ足」はもともとは、相手(あいて)が上げた足をとったり、足をとって相手(あいて)をたおしたりする、すもうや柔道(じゅうどう)の技(わざ)です。技(わざ)で使う「あげ足をとる」はずるいイメージがありますが、相手(あいて)のことばをからかう意味の「あげ足をとる」も、けっしていい意味ではありません。
すもうから生まれた語は、ほかのスポーツにくらべてとても多いのです。それだけすもうが日本人に愛(あい)されてきたからだと思います。
文:神永曉
写真:写真AC
イラスト:イラストAC
(2023.5.23)