すもうの力士が使って広まった語
ことばには、その集団にいる人だけ意味がわかる、という語があります。こうした語は、その語を使うことによって、その集団の仲間だということが感じられるように作られたようです。これを「隠語」といいます。
このような語を作り出す集団はいろいろあります。
今回は、すもうの世界で、力士が使っている「隠語」を紹介します。中には、力士だけでなく、一般の人も使うようになった語があります。
たとえば、力士が食べる料理を「ちゃんこ」と言います。ふつうは大きな鍋に魚やとり肉、野菜などを入れ、味をつけて食べる料理です。これを「ちゃんこ鍋」とよんでいます。「ちゃんこ鍋」の作り方には決まりはありませんが、力士は朝のけいこのあと、朝食と昼食をいっしょにした食事として「ちゃんこ鍋」を食べます。
ちゃんこ鍋
なぜ、「ちゃんこ」と言うのかは、よくわかっていません。この料理を作る当番の力士を「ちゃん」とよんだためという説があります。また、中国料理で使うなべをチャンクオと言って、そのようななべを使った料理だからという説もあります。
この「ちゃんこ」が食べられるお店もあります。中には、むかし力士だった人のお店もありますので、その力士が所属していた「部屋」と呼ばれるところの「ちゃんこ」を食べることもできます。
力士はみな大きなからだをしていますが、よく見ると、ふとっていておなかが出ている力士と、やせていておなかの出ていない力士がいます。このからだについて、ふとっている力士を「あんこ」「あんこがた」、やせている力士を「そっぷ」「そっぷがた」と言います。「あんこ」は、アンコウという魚から生まれた語だという説があります。魚のアンコウはまるまるとふとった魚です。すもうとは関係ありませんが、この魚は冬に「あんこう鍋」という料理にして食べます。
あんこがたの力士
あんこう
あんこう鍋
「そっぷ」は、スープを作るときに使うとり肉の肉の部分を取りのぞいた骨のことだと言われています。やせているので肉がなく、骨だけという意味です。むかしは「スープ」のことを「ソップ」と言っていたのです。
そっぷがたの力士
そっぷ
すもうで勝ち負けをしめすしるしを「星」と言います。白と黒の丸いしるしで表していますが、それを「星」とよんでいます。勝ったときは白いまるで「白星」、負けたときは黒いまるで「黒星」と言います。この「白星」と「黒星」は、すもう以外のスポーツでも使います。試合に勝ったときは「白星」、負けたときは「黒星」と言います。
また、すもうの平幕(「前頭」とも言います)の力士が、いちばん上の位である横綱に勝つことを「金星」「金星をあげる」と言います。たくさん「金星」をあげると給料が上がるので、平幕の力士は横綱と対戦するときはとくにがんばります。この「金星」も、すもう以外のスポーツでも強い相手に勝つときに使います。
文:神永曉
画像:写真AC/イラストAC
(2023.9.19)