日本のシカ


奈良公園のシカ
ニホンジカはふつう山にいますが、奈良公園のように町の中にいるシカはとてもめずらしいのです。なぜ奈良公園にたくさんのシカがいるのかというと、公園の中にある春日大社に、この神社の神さまが白いシカに乗ってやってきて、公園にいるシカはその子孫だという伝説があるからです。その伝説が正しいかどうかはわかりませんが、奈良時代(710年〜784年)に春日大社のまわりにシカがいたという記録が残っています。
シカは特に秋に、オスがメスを求めて大きな声でなきます。このなき声のことが和歌の中でよまれました。その和歌では、秋なので木の葉が赤や黄色になったもみじともよく組み合わされています。このもみじとシカの組み合わせは、絵画や工芸品などにも使われました。「花札」というゲームで使うカードがありますが、それにもシカともみじを組み合わせた絵のカードがあります。

花札のカード。もみじとシカの組み合わせも見られる
奈良公園では観光客がシカにあたえるための「しかせんべい」と呼ばれるシカ用のおかしが売られています。シカにあたえるものですから人間は食べられません。公園の中にはこの「しかせんべい」を売っているところがあちこちにあります。「しかせんべい」を買うとシカたちはすぐに集まってきます。でも奈良公園のシカは人間になれていますが、イヌやネコのようにかわれているわけではないので、「しかせんべい」をあたえるときは注意が必要です。

しかせんべいを食べるシカ
子どものシカの背中の毛には白い点があります。これを「かのこまだら」「かのこ」といいます。「まだら」はちがった色がところどころにまじっていたり、色にこい部分とうすい部分があったりすることをいいます。このシカの毛の白い点のように染めたもようがあります。これを「かのこしぼり」といいます。「かのこしぼり」は着物などに使われます。また、この「かのこしぼり」のように見えるということで、「かのこもち」とよばれるお菓子もあります。



日本の古い庭には、一定のあいだをおいてコーンといういい音を出す道具が置かれています。「しかおどし」「ししおどし」といいます。これは太いタケのつつを真ん中あたりで回転するようにし、そのつつに水がたまるようにしたものです。水がいっぱいにたまるとかたむいて中の水が流れ出すため、中がからになったつつが勢いよく元の位置にもどり、つつのおしりの部分が石に当たっていい音を出すのです。これはもともとは庭にしのびこんだシカやイノシシをおどろかせて、追い出すためのものでした。でも今は、庭のふんいきを増すようにするために置かれています。

ししおどし
文:神永曉
画像:写真AC
(2025.8.19)