サクラ前線
サクラの花を見に行くことを「花見」と言います。「サクラ見」と言わずに「花見」と言うのは、日本では「花」と言えば、ふつうはサクラのことを意味するからです。
日本の各地には、サクラの花の有名な場所がたくさんあります。そのような場所では、サクラの花が咲くのに合わせて、「サクラ祭り」というお祭りが行われることがあります。食べ物や飲み物、おもちゃなどを売る店がたくさんならび、人もおおぜいやってきて、とてもにぎやかなお祭りです。
日本人がサクラの花を愛するようになったのは平安時代(8世紀から12世紀の末)からで、それ以前はウメの花の方が人気がありました。平安時代になるとサクラの花は春の代表的な風景となり、花が咲いて、それがちるまでの変化に人々は心をうばわれました。そんな平安時代の貴族で歌人だった在原業平という人は、「もしこの世の中にまったくサクラというものがなかったならば、春の人の心はのんびりしたものだろうに」という意味の和歌を作りました。春はのんびりとした季節なのに、サクラの花が咲いたといっては胸をどきどきさせ、花がちるといっては心配させられる、心の休まるひまもないという意味です。
平安時代とサクラ(「源氏物語図屏風(胡蝶)」:「ColBase」を加工して作成)
こうしたサクラの花が咲いてから花がちるまでの変化のようすを表すことばも、数多く生まれました。
たとえば「花がすみ」は、すべての花が咲いたサクラが、遠くから見るとぼんやりとしたようすで、まるで「かすみ」がかかったように見えることをいいます。
「花ふぶき」は、サクラの花びらがちって風にふかれてみだれながら飛ぶようすが、まるで空からふる雪が風にふかれてまいあがる「吹雪」のようだという意味の語です。
花ふぶき
「花明かり」は、一面にさいたサクラが暗い中でも少しだけ明るく見えることをいいます。
「花いかだ」は、サクラの花びらがちって、川や池などの水の上に浮かびながら流れていくことをいいます。そのようすが、木材や竹などを並べて結び合わせ、水に浮かべる「いかだ」のようだという意味です。
花いかだ
いかだ
「夜ザクラ」は、夜に見るサクラのことや、夜の花見のことをいます。夜の花見では、明かりをつけてサクラの花を昼間とは違ったようすで見えるようにします。電気の明かりを使うこともありますが、鉄製のかごの中で火をもやして明かりにすることもあります。この明かりのことを「かがり火」といいます。
夜ザクラ
かがり火
サクラの葉を使った「かし」もあります。「さくらもち」という名で、小麦粉などで作った皮で「あん」をまいて、塩につけたサクラの葉でつつんだものです。葉まで食べられ、とてもいいかおりがします。
さくらもち
日本人はサクラがほんとうに大好きで、いろいろな楽しみ方をしているのです。
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