カラスと日本人
日本にはいろいろな種類の鳥がいます。日本人はむかしから鳥が大好きだったので、文学作品にもいろいろな鳥が出てきます。
ただ、日本でいちばんよく見かける鳥はカラスかもしれません。森や林だけでなく、人間が住む都会でもよく見かけます。まっ黒な大きな鳥です。カラスの仲間の鳥は世界中にいますが、日本にいるカラスはかなり大きいのです。はじめて日本に来た人は、その大きさにおどろくかもしれません。
カラス
カラスは朝や夕方になると、特に大きな声で鳴きます。日本人はこの鳴き声を「カアー、カアー」と表現しています。マンガなどでは、この鳴き声を「アホー、アホー」と表現しているものもあります。「アホ」は人のことをばかにしたことばです。
カラスは漢字で「烏」と書きます。「鳥」という漢字によく似ていますが少しちがいます。どこがちがうかわかりますか。よく見てください、横の線が一本「鳥」よりも少ないのです。「烏」という漢字は、カラスの形を表現しています。カラスはからだ全体がまっ黒ですが、「烏」という漢字が「鳥」という漢字よりも横線が一本少なくなっている部分は、カラスの目のあたりだといわれています。カラスは目も体も黒くて区別ができないので、目の部分にあたる横線がないということのようです。
カラスは全身がまっ黒で、大きな声で鳴き、少しこわくてあやしい感じのする鳥ですが、日本ではむかしから神の意志を伝える不思議な力をもった鳥と考えられてきました。
日本の神話には、「やたがらす」という名のカラスが登場します。「やた」というのは大きいという意味、つまり大きいカラスということです。このカラスは、日本の最初の天皇といわれる神武天皇の軍隊が山の中を進むとき、道案内をしたといわれています。
このようなこともあって、カラスと関係の深い神社が日本の各地にあります。愛知県名古屋市にある熱田神宮、滋賀県にある多賀大社、広島県の厳島神社などです。和歌山県にある熊野本宮大社という神社もカラスとの関係で有名です。この神社で出す「熊野牛王神符」という神様のお守りの札には、たくさんのカラスの絵がデザインされてえがかれています。えがかれたカラスの数は88もあります。
カラスは鳴き声もうるさいので、カラスが鳴くと不幸が起きるなどともいわれてきました。でも完全に嫌われていたかというとそうではありません。カラスを使った楽しい語もけっこうあります。
「カラスの行水」は、「行水」とはうつわに湯や水を入れ、その中でからだを洗い流すことですが、これはおふろに入って、ゆっくり体を洗わずすぐ出てしまうことをいいます。カラスが水を浴びているようすを、あっという間だと思ってそのようにいうようになったのでしょう。
カラスの行水
「今泣いたカラスがもうわらう」は、今まで泣いていた者が、すぐにきげんを直して笑っているということで、子どもがすぐに泣いたりわらったりすることをいいます。
人間の家の近くにいることが多いカラスですから、日本人はいろいろな想像をして見つめていたのでしょう。
文:神永曉
画像:写真AC/イラストAC
(2024.11.19)