日本語多読道場 yomujp
歌舞伎(かぶき)から生まれたことば
歌舞伎(かぶき)役者(やくしゃ)
歌舞伎(かぶき)は江戸時代(えどじだい)の後期(こうき)にとても人気が出ました。そのため、歌舞伎(かぶき)から多くのことばが生まれたのです。その中には、今でも使われていることばがたくさんあります。
たとえば「二枚目(にまいめ)」という語があります。顔(かお)が美(うつく)しい男のことです。この語は、歌舞伎(かぶき)の役(やく)の中で、多くの女性(じょせい)に人気の美(うつく)しい男のことをいいました。なぜ「二枚目(にまいめ)」がそのような意味になったのでしょうか。江戸時代(えどじだい)の歌舞伎(かぶき)の劇場(げきじょう)では、主要(しゅよう)な男役(やく)の俳優(はいゆう)の名を一人1枚(まい)ずつ看板(かんばん)に書いてかざっていました。その中で、女性(じょせい)に愛(あい)される美(うつく)しい男を演(えん)じる俳優(はいゆう)の名は、その看板(かんばん)の中の二枚目(にまいめ)に置(お)かれたのです。それから美(うつく)しい男を「二枚目(にまいめ)」と言うようになりました。
「三枚目(さんまいめ)」という語もあります。おもしろいことを言ったり、したりする人のことです。この語も劇場(げきじょう)の看板(かんばん)の三枚目(さんまいめ)には、おもしろい役(やく)を演(えん)じる役者(やくしゃ)の名を書いたところから生まれました。
まわりの人に残念(ざんねん)に思われながら引退(いんたい)することを、「花道を飾(かざ)る」と言います。この「花道」も歌舞伎(かぶき)で使われている語です。歌舞伎(かぶき)の舞台(ぶたい)には、舞台(ぶたい)に向(む)かって左側(ひだりがわ)に俳優(はいゆう)が出入する道が作られています。これが「花道」です。なぜ「花道」とよばれているかというと、最初(さいしょ)はこの場所(ばしょ)で客(きゃく)が応援(おうえん)している俳優(はいゆう)にお金や品物をあげていたからです。このお金や品物のことを「花」とよんでいました。この「花」をあげる「道」ということで、「花道」とよばれるようになったのです。
左側(ひだりがわ)にある細(ほそ)い通路(つうろ)が「花道」
「花道」とよばれるところはすもうにもあります。土俵(どひょう)に向(む)かう4本の通路(つうろ)のことです。力士(りきし)はこの通路(つうろ)を通って土俵(どひょう)に向(む)かいます。むかしはこの道を通るとき、力士(りきし)は作り物の花をつけて入場したので、「花道」とよばれるようになったのです。
その人がよくやる動作やよく口にすることばを、「おはこ」と言います。「また先生のおはこの話が始まった」「おはこの歌を歌う」などと使います。
「おはこ」は漢字で「十八番」と書きます。なぜ「十八番」と書くのかというと、江戸時代(えどじだい)に歌舞伎(かぶき)俳優(はいゆう)の七代目(しちだいめ)市川団十郎(いちかわだんじゅうろう)(7回目(かいめ)にこの名前を名乗(なの)った人)が、市川(いちかわ)家に伝(つた)わる得意(とくい)な芸(げい)を「歌舞伎(かぶき)十八番(じゅうはちばん)」として公表(こうひょう)したことによると言われています。ただ、市川団十郎(いちかわだんじゅうろう)が「歌舞伎(かぶき)十八番(じゅうはちばん)」を公表(こうひょう)する前から「十八番(じゅうはちばん)」という語は使われていました。俳優(はいゆう)がとくいとしている人気のある芸(げい)を、「十八番(じゅうはちばん)」とよんでいたのです。この「十八番(じゅうはちばん)」を、のちに「おはこ」と読むようになりました。「おはこ」の「はこ」は物を入れる容器(ようき)のことです。「おはこ」はその「はこ」の外側(そとがわ)に、中に入っている物が本物であると書いたことから生まれた語です。
はこの外側(そとがわ)に本物と書かれている(出典:ColBase)
幕(まく)の内(うち)弁当(べんとう)
文:神永曉
写真:写真AC/ColBase
イラスト:イラストAC