複数の辞典を読みくらべる
『岩波国語辞典』(第八版)のように、
「右」は「東を向いた時、南の方」、
「左」は「東を向いた時、北の方」と、
「東」を基準にしているものもあります。
『新選国語辞典』(第十版)も、「東」が基準です。
東西南北を使わずに説明しようとしている辞典もあります。
『明鏡国語辞典』(第三版)は、
人の体の「心臓のない方」を「右」、
「心臓のある方」を「左」
だと説明しています。
『新明解国語辞典』(第八版)では、
「右」は「アナログ時計の文字盤に向った時に、一時から五時までの表示のある側」、
「左」は「アナログ時計の文字盤に向った時に、七時から十一時までの表示のある側」
だとしています。『三省堂国語辞典』(第八版)では、
「右」は「『一』の字では、書き終わりのほう。『リ』の字では、線の長いほう」、
「左」は「『一』の字では、書きはじめのほう。『リ』の字では、線の短いほう」
という説明です。
また、東西南北を使って説明している『岩波国語辞典』は、
「右」には「この辞典を開いて読む時、偶数ページのある側を言う」、
「左」には「この辞典を開いて読む時、奇数ページのある側を言う」
という説明もあります。『新選国語辞典』は、
「右」は「大部分の人にとって、はしを持つ手のあるほう」、
「左」は「大部分の人にとって、はしを持つ手と反対のほう」
と、日本人しかわからないような説明も追加されています。
別に辞典編集者は、ことばの意味で遊んでいるわけではありません。一番わかりやすい意味はどのようにしたらいいのかと、しんけんに考えているのです。そして、ほかの辞典のまねではない、その辞典だけの説明をのせようとしているのです。辞典編集者の私が言うのも変ですが、よくいろいろと考えたものだと思います。
みなさんは、どの辞典の説明が一番わかりやすいですか。また、そのようなことはあまりないかもしれませんが、みなさんが「右」「左」を日本語で説明しなさいと言われたら、どのように説明しますか。
この「右」「左」だけでなく、国語辞典にのせられた語の意味は、辞典によってぜんぶ違います。一度いくつかの国語辞典で、同じ語を引いて、くらべてみてください。きっと新しい発見があると思います。
文:神永曉
イラスト:村山宇希
写真:フォトAC
(2022.4.5)