多くの人が、日本はひとつの民族で構成されていると思っているでしょう。けれども、日本列島の北の地域、とくに北海道には、昔からアイヌという先住民族が住んでいました。彼らは日本語とは異なる「アイヌ語」を話していました。さらに、自然界のすべてのものに魂があると考えています。他にも、アイヌ特有の独特な文化があります。芸術的なセンスもあり、固有の文様で飾られた上着などは、美術品のようです。
アイヌ民族の歴史は、困難さに満ちたものでした。あとからやって来た「日本人」からの差別を受け、苦しんだからです。民族名称である「アイヌ」という言葉は、「人間」などを意味するアイヌ語です。アイヌの人々は、自分たちが人間であることを自ら主張する必要があったのです。
2020年の7月12日、アイヌの人々の歴史や文化を理解することを目的として、「民族共生象徴空間」と呼ばれる施設が北海道に作られました。アイヌの文化の復興を目指す施設であり、政府が200億円もの事業費を投入した大きな試みでした。先住民族であるアイヌの歴史と文化を主題とした日本で初めての国立博物館です。多くの人の注目を集めています。もし、北海道を旅行することがあったら、是非、行ってみてください。静かで不思議な雰囲気に包まれながら、アイヌの人々の文化に触れることができます。
この「民族共生象徴空間」は、ウポポイ(Upopoy)と呼ばれています。ウポポイとはアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味しているそうです。マスコットキャラクターもあり、「トゥレッポん」という名がつけられています。アイヌ語でオオウバユリを指す「トウレプ(turep)」に、同じくアイヌ語で「小さいもの」を意味する「ポ(po)」をつけ、結びに「ん」とつけて呼びやすくしたものです。写真を見てください。可愛いでしょう?
ウポポイマスコット トゥレッポん
ウポポイが完成したことをニュースで知り、私は行ってみたいと思いました。長い間、アイヌについて知りたいと思いながら、知識が足りないと感じていたからです。念願がかない、2022年の7月、私はウポポイに行くことができました。
「ウポポイ」は、北海道の南西部に位置する白老町にあります。敷地は約10万㎡といいますから、東京ドームが二つ入るほどの広さです。敷地はポロト湖とポロト自然休養林の隣にあり、緑豊かな空間となっています。そこには、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設という3つの大きな施設が作られています。どれもが、私たちがアイヌの文化を理解するために大切なものです。
ウポポイの地図
「ウポポイ」の門をくぐると、今まで知らなかった世界が広がっているのを感じます。それは私にとって驚きの体験でした。まず最初に、国立アイヌ民族博物館を見学しました。展示はわかりやすく、楽しいものでした。アイヌについて知識がない人でも理解しやすいように、工夫が凝らされています。展示の中で、とくに魅力的だったのは、アイヌの文様がついた数多くの上着です。
アイヌの衣装
アイヌの死装束
他にも、アイヌの楽器や像など、見ていて時間が足りないほどです。
アイヌの楽器
木彫りの像
展示ばかりではありません。アイヌ民族博物館の建物も、印象深いものです。設計のときには、周囲の自然と調和することに注意が払われたといいます。展示室に入る前にロビーを通りますが、大きく横に長いガラスが設置され、外をパノラマのように見渡すことができます。パノラマロビーからは、ポロト湖全体を見ることができます。まるで水の上の宮殿にいるかのようです。
ポロト湖
博物館の1階には、ミュージアムショップ、カフェ、ライブラリー、シアターがあります。2階には多くの展示がなされています。基本となる展示室は「ことば」「世界」「くらし」「歴史」「しごと」「交流」の6つのテーマに分かれています。自分が一番興味があるテーマから見ていくのがよいと思います。人間は興味があることには熱心なものですから、疲れを感じないのではないでしょうか。
展示を丁寧に見ていくと、アイヌの人々が、独特の言語や文化、歴史を持っていることがわかります。国立アイヌ民族博物館を見ていると、アイヌの人々の歴史や文化を伝えていく大切さを感じます。
「ウポポイ」を見学しているうちに、おなかがすいてきたら、レストランに行ってみてください。有料区域の外に、フードコートやレストランがあります。チケットを持っていれば、再入場もできますから、博物館を見学し、くたびれたら、レストランで一休みし、もう一度、見学エリアに戻ることもできます。
レストランでは、「食」を通してアイヌ文化を体験できます。たとえば、焚火ダイニング「カフェ ハルランナ」では、アイヌの文化に欠かせない食べ物を用いて調理したメニューがあります。鹿や羊などを焼いたステーキは、健康にもよく、何よりも、大変、おいしいのです。スープの容器も面白く、私は楽しみました。
スープの容器
ウポポイのお料理
ウポポイはアイヌについて勉強する場所です。しかし、それだけではなく、楽しい時間を過ごすことができる場所でもあります。ウポポイから帰ってから、私はアイヌに関する本を読み始めました。私にとって、ウポポイはアイヌを知るための最初の門だったような気がします。
文・写真:三浦暁子
(2023.2.3)