秋の俳句
俳句は、世界でいちばん短い詩と言われています。５・７・５のわずか17文字の中に、「季語」という季節を表すことばを入れ、その季節の景色や心情を表現します。俳句を作ることを、俳句を「詠む」といいますが、17文字の中に感じたことを詠み込み、思いを言葉に乗せるのが、俳句の楽しさのひとつかもしれません。
よく知られている秋の俳句をご紹介しましょう。俳句における「秋」は、今でいうと、だいたい８月から10月のことをいいます。それをイメージして読んでみてください。
「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」正岡子規
法隆寺は、７世紀ごろに建てられた、奈良にあるお寺です。木で造られた建物の中では、世界で一番古いと言われています。
目を閉じてその場の様子をイメージしてみましょう。どんな景色が浮かんできますか。
まず、どんな空でしょうか。「秋晴れ」ということばもありますが、秋の空というと、よく晴れて気持ちのいい青空が想像されます。または秋の夕暮れ、柿と同じオレンジ色の空の可能性もありますね。どちらにしても、その空の下、秋のさわやかな風が吹いているかもしれません。食べている柿の味はどうでしょう？ 奈良の「御所柿」という柿は鮮やかなオレンジ色で、甘くておいしいと有名です。それを味わっているところに、鐘のいい音が響いてきます。目、口、耳で秋を感じている様子が伝わってくるようです。
この俳句を詠んだ正岡子規（1867年～1902年）とは、どんな人物だったのでしょうか。
子規は1867年に愛媛県松山市で生まれました。子どものころから、中国の詩や絵、書道などに触れ、政治の話にも関心があったといいます。その後、東京に出て大学に入り、俳句をつくり始めました。子規は俳句の研究にも熱心でした。大学を途中でやめた子規は、新聞記者になり、理論と実践を通じて、現代的な俳句を誕生させました。子規は、わずか17文字で自然や物事を実際に見たままに表現したのです。
正岡子規
出典：国立国会図書館「近代日本人の肖像」
子規は結核という病気を抱えていました。病気のため、ふるさとの松山に帰った子規の世話をしたのが作家の夏目漱石（1867年～1916年）です。子規と漱石は大学の同級生で、とても親しかったようです。子規は漱石が住んでいた家（愚陀仏庵）で、２か月ほど一緒に暮らしました。そこで二人は俳句を作ったりして、友情を深めました。
夏目漱石
出典：国立国会図書館「近代日本人の肖像」
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「柿食えば～」の俳句は子規が松山から東京に戻る途中、奈良に立ち寄ったときに詠まれたものです。子規は、それまで柿が詩や俳句などに取り上げられることはなく、柿と奈良の組み合わせを思いつくことができて、とてもうれしかったと言っています。子規は柿が大好物で、一度に何個も食べるほどだったと言います。
東京に戻った子規は、病気が悪化し、歩くこともできない体になってしまいます。それでも子規は、庭にある草花や身の回りのものを俳句に詠み続けました。子規の家にはいつも多くの友人、知人が集まってきて、とてもにぎやかだったようです。子規は亡くなる直前まで俳句を詠み続け、約25,000の俳句を残しました。そして34歳でこの世を去り、今は東京都北区の大龍寺で眠っています。
子規に関する記念館などがあります。機会があったら、足を運んでみてはいかがでしょうか。
文：新階由紀子
画像：写真AC／イラストAC／国立国会図書館／ウィキメディア・コモンズ
(2024.9.27)
