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(まめ)まき

日本ではむかしから、「立春」とよばれる日が春の始まりだと考えられてきました。それはいつごろかというと、年によって(ちが)いますが、だいたい2月4日ごろです。「立春」から春になるということは、その前の日までは冬だったわけです。

「立春」の前の日を、節分(せつぶん)とよんでいます。「節分(せつぶん)」とは季節(きせつ)(うつ)()わるときという意味ですが、この「節分(せつぶん)」の日に各地(かくち)神社(じんじゃ)(てら)一般(いっぱん)家庭(かてい)でも「(まめ)まき」という行事をおこないます。

391_N2_辞典編集者から「豆まき」01

(てら)や家での(まめ)まき

(まめ)まき」では、ふつうなべなどに入れて火であぶった大豆(だいず)を使います。最近(さいきん)は「(まめ)まき」に使う大豆(だいず)をお店でも売っています。なぜ大豆(だいず)を使うのかよくわかりませんが、むかしから大豆(だいず)には不思議(ふしぎ)な力があると考えられていたようです。ただ大豆(だいず)ではなく、落花生(らっかせい)をまく地域(ちいき)もあります。なぜ落花生(らっかせい)をまくのかもよくわかりません。北海道や東北地方、九州(きゅうしゅう)一部(いちぶ)(けん)などでは落花生(らっかせい)をまくことが多いようです。

(まめ)まきでつかう大豆(だいず)

落花生(らっかせい)

節分(せつぶん)」のときに(まめ)をまくのは、悪い病気を広める「(おに)」をおいはらう行事がむかし宮廷(きゅうてい)天皇(てんのう)が住んでいるところ)でおこなわれていたためです。(まめ)をまきながら「(おに)」をおいはらうときに、(こえ)に出して言うことばがあります。

(おに)は外、(ふく)(うち)

というものです。意味は、(おに)は家の外に出て行け、(ふく)(しあわ)せ)は家に入って来いということです。

このことばもけっこう古くから使われていました。1447年に京都(きょうと)(てら)のお(ぼう)さんが書いた日記(にっき)にも「(まめ)まき」のことが出てきます。明日は立春なので、あたりが(くら)くなってから火であぶった(まめ)部屋(へや)ごとにまいて「()(がい)(ふく)(うち)」の四字を口に出して言う、といった内容(ないよう)です。「()(がい)(ふく)(うち)」は「(おに)は外、(ふく)(うち)」ということです。

室町(むろまち)時代(1336年~1573年)に生まれた「狂言(きょうげん)」という(げき)の中に『節分(せつぶん)』という題名の(げき)があります。こんな内容(ないよう)です。

節分(せつぶん)の夜に、女がひとりでるすばんをしていると、そこに蓬萊(ほうらい)という名の(しま)から来た(おに)がやってきます。(おに)は女の(うつく)しさに心を(うば)われ、さかんに女に(こえ)をかけたり歌を歌ったりして近寄(ちかよ)ってきます。でも女は相手(あいて)にしません。反対(はんたい)に女は(おに)のことばにしたがったように見せて、(おに)が持っていた、着ると姿(すがた)をかくすことができるという不思議(ふしぎ)雨具(あまぐ)や、ふるとほしいものをなんでも出せるという「うちでのこづち」という道具(どうぐ)などを(うば)ってしまいます。そして女は「(ふく)(うち)へ、(ふく)(うち)へ、(おに)は外へ、(おに)は外へ」と言いながら(まめ)をまいて(おに)()い出してしまうのです。

(おに)は外、(ふく)(うち)」は(まめ)まきのときに口にする、おまじないのようなことばです。

(むかし)雨具(あまぐ)

こづち

ところで、節分(せつぶん)のときにまく(まめ)を、自分の年齢(ねんれい)(かず)だけ食べるという風習も古くからあります。年齢(ねんれい)というのは、生まれた年を1(さい)とし、そのあと新しい年になると1(さい)ずつ年齢(ねんれい)をたしていくものです。これを「(かぞ)え年」といいますが、誕生日(たんじょうひ)になったときに年齢(ねんれい)を1(さい)足す(かぞ)え方よりもふつうは年齢(ねんれい)が1(さい)誕生日(たんじょうひ)までは2(さい))多くなります。

私は10(さい)くらいのときに、(まめ)まきの(まめ)大好(だいす)きで年齢(ねんれい)(かず)だけでは物足りなくてたくさん食べてしまい、お(なか)をこわして医者に行ったことがあります。お医者さんからはまじめな(かお)で、「(まめ)を食べるときは年齢(ねんれい)(かず)だけにしなさい」と言われました。今年私は、年齢(ねんれい)(かず)だけ(まめ)を食べるとすると、70()も食べなければなりません。

文:神永曉
写真:成田山新勝寺/写真AC/Adobe Stock

イラスト:イラストAC

(2025.1.28)

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