デートの相手
最近、私と田中君は休みの日に映画を見に行ったり、水族館へ行ったりしている。
彼はいい人だし、やさしいし、いっしょにいると楽しい。でも、彼はいつも約束の時間に遅れる。私は早く彼に会いたいから約束の時間より5分ぐらい前に着くようにしている。でも、彼は約束の時間を5分、10分過ぎてから来るのだ。
あまり遅いと、イライラする。それで「どうしてこんなに遅くなったの?」と言って、けんかをしてしまうこともある。
今日も、私は駅で彼を待っている。天気がよくて、暖かい日だったらスマホを見たり、近くを散歩したりしながら待っていられる。でも、こんな雨の日にずっと立って待っているのはちょっと…。
駅には、私のほかにも友だちや恋人を待っている人がたくさんいた。
みんな雨にぬれないように改札口の近くの屋根の下にいるから、こんでいる電車の中にいるみたいだ。
でも、みんなの約束の相手はすぐに来て、「待った?」「お待たせ」と言いながら楽しそうに駅の改札口に入って行く。
いつのまにか、改札口の前に立っているのは、私ともう一人の男の人だけになっていた。あの人もデートの相手を待っているようだ。
男の人は私が見ているのに気がついて、私の顔を見た。それから、「あなたの約束の相手もまだ来ないんですか」と言って、ちょっと笑った。
「ええ。あなたも?」
私がそう言うと、男の人は、「ええ」と言った。
「彼女はいつも遅れて来るんです。今日はもう20分も待っています」
「私もそれぐらい待っています」
「こんなに遅れたら、もう映画の時間に間に合わないかもしれない。困ったなぁ」
男の人は、時計を見ながら言った。
「本当に。私たちも映画を見る予定だったけど、もう無理かも…。『ドンキーの冒険』、あと15分で始まっちゃう」
「ぼくたちも、それ、見ようって言ってたんですけど…。でも、今からだと『ムーンライト』なら間に合いそうですね。ぼくは、そっちのほうが見たかったから、そっちにしようと思います」
「あ、『ムーンライト』もおもしろそうですよね。キャストもいいし。私たちもそうしようかな」
私と男の人は、少しの間、映画や好きな俳優の話をした。
「でも、『ムーライト』もそろそろ電車に乗らないと間に合わないかも…」
男の人は、時計を見ながら言った。
私はスマホを見た。さっき田中君に送ったメッセージの返事は、まだ来ていない。
んもう!じゃ、電話しよう。急げば『ムーンライト』に間に合うから早く来て!って言おう。
「あのう、よかったら、ぼくといっしょに『ムーンライト』を見に行きませんか」
男の人が私に言った。私は少しびっくりしたけど、スマホをバッグにしまった。そして、
「そうですね。いっしょに見に行きましょう」
と男の人に言った。
「あ、ぼく、川口光太と言います」
「私は、山田ゆうな」
その日から、私のデートの相手は、川口君になった。
文:牧友美子
イラスト:イラストAC
(2023.12.8)
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