「人々」の「々」は漢字?記号?
日本の文字の中には、漢字のようで漢字ではない文字があります。「々」です。
「人々」「日々」のように、同じ漢字をくり返すときに使います。「人々」は「人人」、「日々」は「日日」と同じ漢字を書いてもいいのですが、ふつうは「々」を使います。読みも前にある漢字の「ひと」ではなく「びと」、「ひ」ではなく「び」という違いはありますが、前の漢字によって読みが決まります。
「々」は名前にも使います。たとえば、「佐々木」「野々村」「加々美」などです。それぞれ「ささき」「ののむら」「かがみ」と読みます。
「々」は地名にも使われる
この「々」は、漢字のように見えますが、実は漢字ではありません。そのため漢和辞典にのっていないこともあります。ではいったいこれは何なのでしょうか?
答えはくり返しを表す記号です。記号ですので決まった読みはありません。
でも、一般に呼ばれている名前はあります。「ノマ」というもので、「々」の形がカタカナの「ノ」と「マ」をくっつけたように見えるため、このように呼ばれています。ただ国語辞典では、「ノマ(のま)」で引いてもことばがたくさんのっている国語辞典にしかないようです。
この「々」のようなくり返しの記号は、ほかにもあります。ひらがなやカタカナと一緒に使う、「あゝ」の「ゝ」や「いろ〱」の「〱」です。「あゝ」は「ああ」と読みます。「いろ〱」の「〱」はひらがなの「く」に似ていますが、「く」ではありません。ただ「く」に似ていることから、「くの字点」と言います。「いろ〱」は「いろいろ」と読みます。
明治時代の小説『浮雲』にも「くの字点」はたくさん使われている(出典:二葉亭四迷 著『新編浮雲』第1編,金港堂,明20-24. 国立国会図書館デジタルコレクション )
このような「々」「ゝ」「〱」は、「踊り字」「畳字」とも呼ばれています。どちらも重なった文字という意味です。
「々」という記号が、なぜ文字のように使われるようになったのでしょうか。これには二つ説があります。
一つは、昔中国で書かれた文章(漢文)が日本に伝わったときに、漢字の右下に「〻」という記号を付けて、その字を重ねて読むように指示したからという説です。この記号は「二の字点」と呼ばれ、漢字の「二」をくずして書いた字です。「各〻」のように、前にある漢字と同じ読みをします。
もう一つは、漢字の「同」と同じ意味で字の形が違う、「仝」が変化したという説です。「仝」は「々」のような記号ではなく漢字ですので、「ドウ」と読みます。
「々」は他の漢字と一緒に使われるもので、これだけで使うことはあまりありません。でも、パソコンやスマートフォンを使って文章を書いていて、「々」だけ表示したいと思ったら次のようにしてください。「どう」「おなじ」「くりかえし」「おどりじ」「のま」と入力して、変換キーを押します。みなさんも試しにやってみてください。