長野くんと早川くん
気が長い長野くんは、いつも何でもゆっくりです。話すのも、歩くのも、食べるのも、考えるのも、全部ゆっくりです。心配なこともないし、何かを待つのも嫌いではありません。
気が短い早川くんは、いつも何でもすぐにします。話すのも、歩くのも、食べるのも、考えるのも、とてもはやいです。いつも「早く!早く!」と言っていて、静かに待つことができません。
二人は性格が全然違いますが、子どものときから友達です。
ある日、長野くんが早川くんのうちへ遊びに行きました。長野くんはすぐにうちの中へ入らないで、窓の外からうちの中を見ています。
早川 | 「だれだ!? あ、長野か。3分遅いよ。早く入れ!」 |
長野 | 「…あ、早川くん、いた」 |
早川 | 「自分のうちだからね。どうしたの?」 |
長野 | 「実は、びっくりしたことがあって…」 |
早川 | 「火事? 事故? 何?」 |
長野 | 「昨日の夜、トイレに行って、それから手を洗って、窓を開けたら…」 |
早川 | 「泥棒か? 泥棒がいたの? 大変だったね!」 |
長野 | 「ううん、泥棒…じゃないよ」 |
早川 | 「じゃあ何? どうしたんだよ」 |
長野 | 「外が暗くて、星が全然見えなかったんだよ。あ~、明日雨が降るかもしれないな~と思ったら、今朝、雨が降ったよ」 |
早川 | 「…それだけ? そんなことでびっくりするなよ! それじゃあ時間がいくらあっても足りないよ! あ、そうだ! こっちにうまいケーキがあるから食べろよ。コーヒーもさっき買って来たから飲め! な?」 |
長野 | 「うん、いただきま~」 |
早川 | 「うまいか?」 |
長野 | 「まだ食べてない」 |
早川 | 「遅いな~。そんなに小さく切らないで、そのまま一口で食べればいいんだよ! 紅茶も飲んだ? 次はたばこか? いいよ! はい、ライターと灰皿!」 |
長野 | 「ありがとう。あれ?火がつかない。このライター、壊れてる…」 |
早川 | 「昨日買って来たばかりだし、おれがさっき使ったんだから大丈夫だよ! 貸せ! ほら! ついたぞ!」 |
長野 | 「早川くんはいつも急いでいるから、何かを勉強したり、教えてもらったりするのが嫌いでしょう?」 |
早川 | 「うん、大嫌いだ!」 |
長野 | 「ぼくが教えても怒る?」 |
早川 | 「いや、お前は友達だから大丈夫だよ! 怒らないから何でも教えてくれ!」 |
長野 | 「本当? 怒りそうだから教えたくないな~」 |
早川 | 「怒らないよ! 怒らないから早く言え!」 |
長野 | 「じゃあ、言うよ。早川くん、さっきのライター、左のポケットに入れたでしょう? 火を消さないで入れたから心配だったんだけど、それから煙が出て、服にも火がついて…」 |
早川 | 「え? あ!! 熱い熱い!! 服が燃えちゃったよ!! このバカ!! どうしてもっと早く教えてくれないんだよ!!」 |
長野 | 「あ、やっぱり怒った。だから教えたくなかったのに…」 |
二人は、今も友達です。
原案:落語「長短」
文:瀬戸稔彦
イラスト:Linustock
(2023.3.7)