日本語多読道場 yomujp
「かぜ」はなぜ「引(ひ)く」というのか?
「かぜ」とよばれる病気があります。くしゃみ、鼻水(はなみず)、鼻(はな)づまり、のどの痛(いた)み、せきなどがあり、熱(ねつ)が出ることもある病気です。冬になることが多いのですが、夏でもなることがあります。インフルエンザに似(に)ていますが、インフルエンザの方が症状(しょうじょう)が重くなり、原因(げんいん)となるウイルスもちがいます。
かぜの症状(しょうじょう)
この「かぜ」という病気になることを「かぜを引(ひ)く」と言います。インフルエンザは、「かかる」とか「なる」とか言いますが、「引(ひ)く」とは言いません。逆(ぎゃく)にかぜは、「かかる」「なる」と一緒(いっしょ)に使おうとすると、まちがいではありませんが、「引(ひ)く」の方が自然(しぜん)です。そして病気の中では、「かぜ」だけが「引(ひ)く」を使います。なぜなのでしょうか。
病気の「かぜ」は、むかしは空気の流(なが)れである「風」の影響(えいきょう)を受(う)けて起こるものだと考えられていました。ですので、病気の「かぜ」も空気の流(なが)れの「かぜ」と同じように漢字で「風」と書くのです。また、病気の「かぜ」は「風邪」とも書きます。この「邪」という漢字は、害(がい)となるもの、病気の原因(げんいん)となるものという意味です。
では、「引(ひ)く」はどういう意味なのでしょうか。この「引(ひ)く」は、自分のからだに受(う)け入れる、空気をすってからだの中に入れるという意味です。病気の「かぜ」は、空気の流(なが)れである「風」をすってからだに入れたために起こると考えられていたようです。むかしの人も、空気の流(なが)れによって病気が起こることを、経験(けいけん)として知っていたのでしょう。
「風」をからだの中に入れると「風邪(かぜ)を引(ひ)く」
かぜを引(ひ)くのは人間だけではありません。薬(くすり)やお茶などが古くなって、湿(しめ)ったり乾燥(かんそう)したりして役(やく)に立たなくなることも「かぜを引(ひ)く」と言います。そうなるのは、やはり空気の流(なが)れの「風」に当(あ)たったせいだと考えられていたのです。
お茶の葉(は)はかぜを引(ひ)かないようにこのような容器(ようき)に入れる
ところで、「ばか(あほう)はかぜをひかない」と言います。ばかな人間はいろいろと悩(なや)んだり心配(しんぱい)したりすることがないから、からだがじょうぶだというのです。そのようなわけはないのですが、人をからかうときによく使われる言い方です。
「かぜは万病(まんびょう)のもと」ということわざもあります。「万病(まんびょう)」はあらゆる病気という意味で、かぜはあらゆる病気の原因(げんいん)になるから、用心が必要(ひつよう)であるという意味です。かぜだから心配(しんぱい)ないなどと思っていると、重い病気になることもあるという教えです。
寒(さむ)い冬の季節(きせつ)、かぜを引(ひ)かないようにお気をつけください。
文:神永曉
イラスト:イラストAC
写真:写真AC
(2023.2.24)