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支笏湖(しこつこ)

支笏湖(しこつこ)という(みずうみ)の名前を聞いたことがありますか?北海道(ほっかいどう)千歳市(ちとせし)にある淡水(たんすい)塩分(えんぶん)(ふく)まない水)の(みずうみ)です。大きな(みずうみ)で、最大(さいだい)水深(すいしん)は363メートル、平均(へいきん)水深(すいしん)は265.4メートルもあります。支笏洞爺国立公園(しこつとうやこくりつこうえん)の中にあって、日本の一番(いちばん)北にある不凍湖(ふとうこ)として有名です。(さむ)地域(ちいき)にあるのに、(こお)らないのです。(みずうみ)(ふか)いところに(あたた)かい水があるためだといいます。

支笏湖(しこつこ)ブルー

私は以前から支笏湖(しこつこ)に行ってみたいと思っていました。けれども、なかなか機会(きかい)(めぐ)まれず、(おとず)れることができませんでした。支笏湖(しこつこ)透明度(とうめいど)が高く、その色は独特(どくとく)だと聞いていました。一度見たら(わす)れられなくなるような色をした(みずうみ)だそうです。

昨年(さくねん)の夏、念願(ねんがん)がかない、とうとう支笏湖(しこつこ)に行くことができました。季節(きせつ)()い7月に(おとず)れたのは、支笏湖(しこつこ)観光(かんこう)するのに一番(いちばん)、ふさわしい季節(きせつ)だと思ったからです。「支笏湖(しこつこ)ブルー」と()ばれる独特(どくとく)の青さを楽しむために、できれば天気の()い日に行きたいと思いました。

この季節(きせつ)(えら)んだのは、もうひとつ別の理由(りゆう)があります。支笏湖(しこつこ)にいるヒメマスという魚を食べてみたかったのです。ヒメマスはサケ()の魚で、(みずうみ)()らす淡水(たんすい)魚です。サケは川と海の両方(りょうほう)()らす魚として知られていますが、ヒメマスは(みずうみ)から出ることなくその一生を終えます。地元の人たちはこの魚を「支笏湖(しこつこ)チップ」と()んでいます。元々はアイヌ語で「(うす)い魚」を意味するカパチェプと()ばれていたといいます。それが転じて「チップ」と言うようになりました。

チップのお刺身(さしみ)

支笏湖(しこつこ)水温(すいおん)(ひく)いため、魚の(えさ)となるプランクトン(plankton)などが少ない(みずうみ)です。つまり、栄養(えいよう)(めぐ)まれていません。ところが、チップは支笏湖(しこつこ)順応(じゅんのう)し、ここにすむようになりました。透明(とうめい)な水の中で()らしているので、(くさ)みがなく、大変(たいへん)、おいしい魚です。サケ・マス(るい)の中で、もっともおいしいと言われています。是非(ぜひ)、食べてみたい、多くの人がそう思うでしょう。

けれども、チップは一年中食べることはできません。大切に保護(ほご)されている魚だからです。(かず)減少(げんしょう)(ふせ)ぐため、6月から8月までしか食べることができないのです。

(うつく)しい(みずうみ)を見ながら、そこで()れたチップを楽しむのは贅沢(ぜいたく)な体験です。しかも、3か月という(かぎ)られた期間(きかん)だけ(ゆる)される食事ですから、貴重(きちょう)なひとときとなるでしょう。調理(ちょうり)方法(ほうほう)は、刺身(さしみ)塩焼(しおや)き、フライなど様々(さまざま)です。一旦(いったん)(こお)らせてからいただくルイベという料理もあります。

ブラウントラウト

チップ(りょう)解禁(かいきん)になると、食堂の主人は毎朝のように(りょう)に出ます。そして、()ったばかりの新鮮(しんせん)支笏湖(しこつこ)チップを調理(ちょうり)してくれます。ここにはチップの(ほか)に、ウチダザリガニなど(ほか)では食べられないものもあります。さらには、もうひとつ、(めずら)しい魚がいます。ブラウントラウトという魚です。ブラウントラウトは警戒心(けいかいしん)が強く、()るのが大変(たいへん)(むずか)しい魚です。ブラウントラウトの(えさ)支笏湖(しこつこ)のチップです。そのため、(あぶら)がのっていて、とくにおいしいと言われています。私が支笏湖(しこつこ)に行った日、幸運(こううん)にもブラウントラウトがありました。早速(さっそく)、食べてみると、チップより濃厚(のうこう)な味がしました。

チップはかつては貴重(きちょう)なタンパク(げん)でした。とくに食べ物がない冬の間、人々は夏に()ったチップを乾燥(かんそう)させ、保存食(ほぞんしょく)として大切にしてきました。そうした歴史(れきし)を考えながら食事をするのも、旅の楽しさだと言えるでしょう。透明(とうめい)(みずうみ)を見ながら、()れたての魚をいただいていると、とても(ゆた)かな気持ちになれます。あなたも試してみてはいかがでしょう。

文 :三浦暁子
写真:フォトAC
(2024.2.16)

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