日本語多読道場 yomujp
ガンガラーの谷(たに)
沖縄(おきなわ)に行ったら、ぜひ、見に行っていただきたい場所(ばしょ)があります。「ガンガラーの谷(たに)」と呼(よ)ばれるところです。ここは、数十万年前(すうじゅうまんねんまえ)の鍾乳洞(しょうにゅうどう)が崩(くず)れてできた谷(たに)です。すぐ近くに、「港川人(みなとがわじん)」と呼(よ)ばれる人の骨(ほね)が発掘(はっくつ)された場所(ばしょ)があります。
港川人(みなとがわじん)の骨(ほね)が見つかった場所(ばしょ)が近いため、港川人(みなとがわじん)はガンガラーの谷(たに)で暮(く)らしていたのではないかと考える人もいます。最近の発掘(はっくつ)調査(ちょうさ)や研究によって、港川人(みなとがわじん)と同じ時代の物も見つかっています。真実(しんじつ)は次第(しだい)に明らかにされていくでしょう。
「ガンガラーの谷(たに)」には、沖縄(おきなわ)の那覇空港(なはくうこう)から車で南東に向(む)かって30分ほど走ると到着(とうちゃく)します。バスで行く場合(ばあい)は、那覇(なは)バスターミナルから83番(ばん)または54番(ばん)のバスに乗(の)ってください。玉泉洞前(ぎょくせんどうまえ)というバス停(てい)で降(お)り、観光施設(かんこうしせつ)「おきなわワールド」の入り口の向(む)かいにあります。私はバスで行きました。景色(けしき)がよく、楽しい時間を過(す)ごしましたが、バスを降りたあと、少し道に迷(まよ)いました。「おきなわワールド」を目印(めじるし)にするのを知らなかったからです。
ガンガラーの谷(たに)は、ツアー以外での入場はできません。個人(こじん)での見学は認(みとめ)められていないのです。今も発掘調査(はっくつちょうさ)が続(つづ)いているため、自由に見て歩くことはできません。それに、谷(たに)は森(もり)で覆(おお)われていて、洞窟(どうくつ)など暗(くら)い場所(ばしょ)もあります。
入場するには、ガイドツアーに参加(さんか)する必要(ひつよう)があります。ツアーの料金(りょうきん)は2022年3月現在(げんざい)、2500円です。前もって予約(よやく)する必要(ひつよう)があります。谷(たに)には自然(しぜん)がそのまま残(のこ)っていますので、谷(たに)の中にはトイレもありません。不自由(ふじゆう)だと感(かん)じるかもしれませんが、実際(じっさい)に行ってみると、「来てよかった」と、思うことができます。それまで知らなかったものをたくさん見ることができるからです。
ガイドに付(つ)いて行き、約(やく)1キロほどの距離(きょり)をゆっくり見て歩きます。すぐそばに川が流(なが)れていて、川のきれいな音が聞こえます。鍾乳洞(しょうにゅうどう)の中にも入るので、すべりやすい場所(ばしょ)もあり、注意しなければなりません。運動靴(うんどうぐつ)など歩きやすい靴(くつ)を選(えら)びましょう。
「ガンガラーの谷で見るべきところはどこですか?」と、尋(たず)ねられると、困(こま)ります。あまりにもたくさんあるからです。私の心に残(のこ)った場所(ばしょ)をいくつか紹介(しょうかい)してみます。
まず、大きなガジュマルの木に驚(おどろ)きます。
ガジュマルの木は、今まで見てきましたが、ここまで大きく、神秘的(しんぴてき)なガジュマルを見たのは初(はじ)めてです。下から見上げると、木というより、岩(いわ)のようです。覆(おお)うように木がそびえていて、さらに気根(きこん)と呼(よ)ばれる根(ね)が垂(た)れていて、何か不思議(ふしぎ)な力を感(かん)じます。
「イキガ洞(どう)」と「イナグ洞(どう)」も、見逃(のが)せない場所(ばしょ)です。
「イキガ洞(どう)」は、命(いのち)の誕生(たんじょう)と子どもの成長(せいちょう)を祈(いの)る場所(ばしょ)です。男性(だんせい)のシンボルそっくりの鍾乳石(しょうにゅうせき)が天井(てんじょう)から伸(の)びている様子は印象的(いんしょうてき)です。日本には他(ほか)にもこうした「男根信仰(だんこんしんこう)」がありますが、周囲(しゅうい)を囲(かこ)むガジュマルの木の姿(すがた)とともに、圧倒(あっとう)される場所(ばしょ)となっています。
「イナグ洞(どう)」は、子どもを無事(ぶじ)に産(う)めるように、そして良い人と出会えるようにと、祈(いの)る場所(ばしょ)です。ここには、おしりと乳房(にゅうぼう)を連想(れんそう)させる鍾乳石(しょうにゅうせき)があります。
若(わか)いカップルが、「イキガ洞(どう)」と「イナグ洞(どう)」で、手を合(あ)わせ、一生懸命(いっしょうけんめい)、拝(おが)んでいるのを見ました。きっと赤ちゃんができますようにと祈(いの)っているのでしょう。最近(さいきん)、赤ちゃんができずに悩(なや)んでいるカップルが多いと聞きます。病院で治療(ちりょう)を受(う)ける人たちもたくさんいます。そんな悩(なや)みを抱(かか)えたカップルにとって、「ガンガラーの谷(たに)」は希望(きぼう)を与えてくれる場所(ばしょ)となるでしょう。どんなに医学が進(すす)んでも、神秘(しんぴ)の力が必要(ひつよう)だと思うからです。
3つめは「サキタリ洞(どう)」と「武芸洞(ぶげいどう)」と呼(よ)ばれるところです。ここでは、今も学術的(がくじゅつてき)な発掘調査(はっくつちょうさ)が行われています。考古学者(こうこがくしゃ)たちが、「港川人(みなとがわじん)」の居住(きょじゅう)した証拠(しょうこ)を見つけようと日夜(にちや)努力(どりょく)しています。私は彼(かれ)らを「現代(げんだい)のインディ・ジョーンズ」と呼(よ)びたくなります。
私が一番(いちばん)、感動(かんどう)したのは、展望台(てんぼうだい)にある小さな穴(あな)です。展望台(てんぼうだい)を作ったとき、下から伸(の)びてきたソテツという木が展望台に当たって、成長できなくなってしまわないように、スタッフが、展望台(てんぼうだい)の床(ゆか)に穴(あな)をあけ、ソテツが伸(の)びるように工夫(くふう)しました。ソテツを切ってしまえばいいのに、それをしなかったのです。
このように「ガンガラーの谷(たに)」は、遺跡(いせき)や自然(しぜん)を大切にする心で満(み)ちています。
文:三浦暁子
写真:三浦暁子
(2022.8.9)