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バイアス

みなさんは日常(にちじょう)生活(せいかつ)で、こんなことを考えたり、言われたりしたことはありませんか。

A)「ほら、やっぱり失敗した。最初(さいしょ)からそんな気がしていたよ」

B)「新しいプロジェクトを(すす)めたいと言うけれど、そんな危険(きけん)挑戦(ちょうせん)しなくていいよ」

C)「今どきの(わか)い人は、これだから(こま)るんだ。私が会う(わか)い人はみんなそうだ」

D)「もしかしたら、あの人に()きだという気持ちがばれているかもしれない」

これらの考え方には、人の「バイアス」がかかっている可能性(かのうせい)があります。では、バイアスとは何でしょうか。

バイアスとは、物事への偏見(へんけん)を意味します。人間にはどのようなバイアスがかかるのでしょうか。ここでは、人の認知(にんち)バイアス、つまりそれが何であるかを判断(はんだん)したり、解釈(かいしゃく)したりすることに関するバイアスについて考えてみましょう。認知(にんち)心理学や社会心理学の分野によれば、人が持ってしまう認知(にんち)バイアスは、100種類(しゅるい)以上に分類(ぶんるい)できるそうです。今回(こんかい)は、その中から4つ紹介(しょうかい)しましょう。
まず(はじ)めは、「(あと)知恵(ぢえ)バイアス」です。これは、何かが起こったあとに「やはりそうなると思った」などと考える場合(ばあい)です。つまり、自分は以前から予測(よそく)可能(かのう)であったと考えるバイアスがこの(あと)知恵(ぢえ)バイアスなのです。(たと)えば、上のA)の(れい)です。前もって予測(よそく)できていたのなら、その時に対策(たいさく)()てばいいのですが、そうはせずに、起こってから(あと)知恵(ぢえ)でこのように考えるわけです。具体的(ぐたいてき)場面(ばめん)で言うと、(たと)えば、友人と出かけ、雨が()ってきたら「やっぱり雨が()ってきたな。だから、あまり今日は外出したくなかったんだよ」などと思ったり、発言したりする場合(ばあい)、これは「(あと)知恵(ぢえ)バイアス」となります。まるで最初(さいしょ)からそれが起こることを知っていたかのように、錯覚(さっかく)してしまうバイアスのことです。みなさんもそんな(けい)(けん)があるのではないでしょうか。

雨が()ることは最初(さいしょ)から予測(よそく)できた?

2つ目は、「現状(げんじょう)維持(いじ)バイアス」です。(たと)えば、上のB)の(れい)です。これは、行動の選択肢(せんたくし)があり、どうするかを考える(さい)現状(げんじょう)維持(いじ)しようとするバイアスです。つまり、危険(きけん)(おそ)れて、新しい行動を起こさない場合(ばあい)などが該当(がいとう)します。しかも、のちに現状(げんじょう)維持(いじ)のほうがデメリットの多かったことがわかったとしても、「仕方なかった」と(かる)く考える傾向(けいこう)があるようです。(たと)えば、転職(てんしょく)などはこれに該当(がいとう)するでしょう。自分の中で転職(てんしょく)、つまり仕事を()えるという選択肢(せんたくし)が出てきたときに、今の組織(そしき)でもいいと考え、転職(てんしょく)()みとどまる場合(ばあい)です。のちに転職(てんしょく)しなかったことで後悔(こうかい)があったとしても、「あのときは現状(げんじょう)維持(いじ)するしかなかった」と考えるわけです。

人は現状(げんじょう)維持(いじ)しようとする

3つ目のバイアスは、「確証(かくしょう)バイアス」です。(たと)えば、上のC)の(れい)です。これは、結論(けつろん)をすでに持っており、自分にとって都合(つごう)のいい意見や情報(じょうほう)ばかりを()り入れようとするバイアスです。(たと)えば、「学校の制服(せいふく)はいらない」という意見に賛成(さんせい)しているのなら、賛成(さんせい)している記事(きじ)情報(じょうほう)ばかりを目にして、自分の考えを強めていく場合(ばあい)などです。自分の中では、すでに、結論(けつろん)が出ていて、さらに確証(かくしょう)()たいがために、同意見の情報(じょうほう)をさらに(もと)めるというわけです。この確証(かくしょう)バイアスは無意識(むいしき)で持っていることが多いので、自分と同意見のときほど、自分の判断(はんだん)には(かたよ)りがないか、自己チェックしたほうがいいでしょう。

制服(せいふく)はいらない?

そして、最後(さいご)は、「透明性(とうめいせい)錯覚(さっかく)」です。(たと)えば、上のD)の(れい)です。これは自分の感情(かんじょう)や考えなどが相手(あいて)に見()かされ、(つた)わっているのではないかと考えるバイアスです。(たと)えば、スピーチやプレゼンテーション、面接(めんせつ)などで自分の緊張(きんちょう)状態(じょうたい)相手(あいて)(つた)わっているのではないかと不安に思う場合(ばあい)などです。ほかにも「あのとき、わかっている(かお)をしていたでしょう」などと相手(あいて)()める場合(ばあい)なども該当(がいとう)します。これは、自分の意図が実際(じっさい)よりも相手(あいて)(つた)わっているだろうと考え、相手(あいて)のことを()めている(れい)です。しかし、実際(じっさい)のところ、自分が(つた)わっていると考えるよりも、相手(あいて)には通じていなかったということです。ですから、自分の言った内容(ないよう)が100%相手(あいて)(つた)わるはずだとは考えずに、適宜(てきぎ)理解(りかい)しているかどうか、チェックなども入れたほうがいいでしょう。

実際(じっさい)よりも相手(あいて)(つた)わっていると感じてしまう

このように、人間は、無意識(むいしき)のうちにさまざまなバイアスを持っています。自分にはどのようなバイアスがあるのか、ということを意識(いしき)することで、偏見(へんけん)による人間関係(かんけい)のトラブルや誤解(ごかい)(ふせ)ぐことができるでしょう。今()げた4つ以外にもいろいろありますので、自分で調(しら)べてみるのも面白(おもしろ)いと思いますよ。

【参考サイト】「錯思コレクション100

文:高嶋幸太

写真:写真AC

(2023.06.20)

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