花森ガンバルスvs.石山キックス
私は、先月からこの花森町に住んでいる。ここは会社に通うのに便利だし、駅前にいろいろな店があってにぎやかだし、住むのにいいところだと思ったのだ。
でも、花森町には草野球のチームがなかった。私は中学も高校も野球部だったから、草野球のチームに入りたかったんだけど。
この花森町で大人が入れるスポーツチームは、花森ガンバルスというサッカーチームだけだった。
どうしよう。私はサッカーの経験がない。でも、スポーツがしたいし仲間もほしい。
それで、まず、チームに入れてもらえるかどうか、ガンバルスのキャプテンのユウジさんに聞いてみた。
「サッカーの経験がなくても、スポーツが好きなら大丈夫。実は先月、1人やめてしまったから、今10人しかいないんだ。ケイジ君、ぜひ入ってください。入ったらすぐ試合に出られますよ」
ユウジさんは、そう言ってくれた。
練習は水曜日の夜と土曜日の午後、中学校の校庭でする。少し雨が降っても練習をするけど、大雨のときは、体育館やジムでトレーニングをするそうだ。
サッカーのボールは野球のボールより大きい。それに、野球はボールを手で投げたりバットで打ったりするけど、サッカーはほとんど足を使う。私は、大きいボールや、足を使うことになかなか慣れることができなかった。仲間にボールをパスしたいのに、ボールが変なところへ飛んで行ってしまったり、転んでしまったり。それに、練習の後はいつも足が赤くなって痛かった。
でも、チームの仲間たちが助けてくれた。1人でできる練習のやり方を教えてくれたり、チームの練習がない日に一緒にボールパスの練習をしてくれたり。それで、私はボールをけりたいところにけれるようになって、だんだんサッカーが楽しくなった。
ある日、キャプテンのユウジさんが
「来月、となり町の『石山キックス』に練習試合を申し込もうと思うんだけど」
と言った。するとチームのみんながさわぎはじめた。
「石山キックスは、ほとんどの人が中学や高校でサッカー部だったから、みんな超うまいよ。ドリブルも速いし…」
「でも、相手が石山キックスなら、この近所で試合ができるし、うまい人たちのプレーを見たら勉強になるし…」
「石山キックスはうまい人が多いけど、若い人は少ないよ」
「そうだよ。うちは20代中心だから体力では負けないと思うよ」
みんなの顔がだんだん明るくなった。私も走るのが得意だし、もしかしたら、少しは役に立つかも!? 私たち花森ガンバルスは石山キックスに勝てるかもしれない!!
私たちは、がんばった。
でも、石山キックスはもっと強かった。私はずっと走り続けていたけど、ボールをけったり、さわったりすることは全然できなかった。私たちはどんどん点を取られて、8-1で負けてしまった。
試合の後、石山キックスの人たちが、「一緒に飲みに行きませんか」とさそってくれた。それで、2チーム合同の飲み会をした。
「石山キックスは強いチームですね」
「花森ガンバルスもいいチームだと思いますよ」
私たちは、たくさん飲んでたくさん話した。たぶん、飲んだお酒の量では、花森ガンバルスが勝ったと思う。
文:牧友美子
画像:イラストAC
(2024.11.1)