「こまいぬ」は「イヌ」だけではない
神社に行くと、入り口に近いところや建物の前などに、石や金属で作られた動物の像が左右に一つずつおかれています。この像は「こまいぬ」とよばれています。「こま」は紀元前1世紀から7世紀にかけて、中国東北部、朝鮮半島北部にあった「高句麗」という国のことです。日本ではこの国のことを「こま」とよぶことがありました。また、朝鮮半島のことを「こま」とよぶこともありました。「いぬ」は動物のイヌのことです。つまり、「こまいぬ」は、朝鮮半島にあった「こま」の国から来たイヌということです。
こまいぬ
でも、神社にある「こまいぬ」をよく見ると、イヌには見えないかもしれません。もともとはイヌではなく「しし」だったのです。日本ではライオンのことを「しし」とよぶこともありますが、神社にある「こまいぬ」はライオンではなく、ライオンに似ていますがそれとは違う想像上の動物のことです。
お正月に、各地で「しし舞い」という行事が行われますが、この「しし」も同じです。「しし舞い」では「しし」の頭の部分の形の「しし頭」というものをかぶって、おどります。
しし舞い
(実際のおどりはhere.)
神社に「こまいぬ」が置かれるようになったのは、「こまいぬ」が悪いものから神社を守ってくれると考えたためです。
「こまいぬ」の口を見ると、左右で少しちがうものがあります。一つは口を開けていて、もう一つは口を閉じているものです。すべての「こまいぬ」の口がそうだというわけではありませんが、この口の形を「阿吽」といいます。口を開けている方が「阿」、閉じている方が「吽」です。この「阿吽」は、「仁王」とよばれる寺の左右の門に置かれて、怒った顔つきをしている神様の像も同じ口です。この仁王もお寺を守っているのです。
こまいぬと仁王の「阿吽」
「こまいぬ」はもともとは「しし」だったと書きましたが、「しし」だけでなくほかの動物も「こまいぬ」になっています。
有名なのは、京都の伏見稲荷大社のものでしょう。ここの「こまいぬ」はキツネです。したがって、「こまいぬ」ではなく「こまキツネ」ということになります。伏見稲荷にまつられている神様は食べ物の神様で、キツネはその神様のそばにいてその命令などを人間に伝える(これを「お使い」といいます)動物なのです。伏見稲荷は坂道にたくさん並んだ赤い鳥居が有名ですが、キツネの像もあちこちにあります。
ほかにも、ウサギ、イノシシ、シカ、ネズミ、ニワトリ、ヘビ、カメなどの「こまいぬ」が置かれた神社もあります。イノシシの「こまいぬ」の中には、まわりに子どものイノシシがたくさんいるものもあります。
「こまいぬ」には決まりがないようで、私はどんな「こまいぬ」がいるのか見つけるのを、神社に行くときの楽しみの一つにしています。
文:神永曉
写真:写真AC
(2024.10.15)