言語には、品詞と呼ばれるものがあります。語を文法的な働きによって分類したものです。たとえば日本語では、名詞・代名詞・動詞・形容詞・副詞
・接続詞などです。そして、その語のことをもっとくわしく知りたいと思ったときには、品詞は何かということが重要になります。国語辞典では、その語の品詞を示していますが、どの辞典でも「動詞」と示
されている語がとても少ないのです。
いえいえ、そのようなことはありません。「言う」「見る」「食べる」のような、品詞
が「動詞」と示された語のほかに、「会話する」「発見
する」「食事する」のように、「する」がついて動詞として使われる語もあります。辞典では、「会話」「発見」「食事」の品詞
は名詞ですが、これらの語に「~スル」と書いて、動詞
として使われることを示している辞典
もあります。実はこのようなかくれた動詞の数はとても多いのです。
そして、日本人はこの「~スル」を使って、いろいろな語を 動詞にしてしまいます。
たとえば、最近はあまり使われなくなってきましたが、「タピる」という語がはやりました。「タピオカ」というやわらかい粒を入れた、ココナッツなどを使ったデザートが人気だったときに、それを飲んだり食べたりすることを、「タピる」と言っていたのです。
タピる
似たような語に、「チンする」というのもあります。電子レンジで食べものを温めるという意味です。これは、温め終わったことを知らせる音から生まれました。でも、この語ってちょっとおもしろいと思いませんか。最近の電子レンジは、温め終わったあと「チン」とは鳴らないと思います。私の家の電子レンジも「ピッピ」です。昔の電子レンジは「チン」と鳴ったので、それがそのまま残ってしまったのです。
この、名詞を動詞にするのは、最近のことではなく、昔の人も同じようなことをしていました。ご飯に熱 いお茶をかけて食べる「お茶漬け」という食べものを知っていますか。江戸時代の人はこれを動詞にしてしまったのです。それも「お茶漬けする」ではなく、「ちゃづ(ず)る」と言っていたのです。もちろん意味はお茶漬けを食べるということです。「ちゃづける」でもなく「ちゃづる」と言っていたところもおもしろいと思います。この「ちゃづる」は、江戸時代の小説に出てきます。ちょっとかっこよく言うために使っている場面です。
この「~スル」の形 で作られた動詞は、ほかにもたくさんあります。文:神永曉
イラスト:Adobe Stock
(2022.4.15)