キツネとタヌキという野生の動物がいます。どちらもイヌに似ていますが、イヌのように人間になついたりはしません。昔は人間が住む所の近くにもよくいましたが、最近はあまり見かけなくなりました。
キツネ
タヌキ
このキツネとタヌキは、むかしから人間をだますと言われてきました。そのため、キツネやタヌキが人間をだましたという昔話や言い伝えが、各地にあります。
たとえば、キツネにだまされて道がわからなくなったとか、木の葉が小判(江戸時代の金貨)に見えたとかいった話です。キツネが美しい女に姿を変えて、人間の妻になるという話もあります。
タヌキも人間をだましますが、どちらかというと正体(元の姿)のわからない別のものになって人間をおどろかすという話が多いようです。
そのようなキツネとタヌキですが、人間をだますということから、いろいろなことばが生まれました。
どちらも、人間をだますわけですから、おたがいもだますという意味のことばがあります。「きつねとたぬきのばかしあい」といいます。「ばかす」は「だます」という意味です。キツネもタヌキもどちらも人間をだます悪い者ですが、その悪い者どうしもおたがいにだましあうという意味です。キツネやタヌキのことをいっていますが、この語は悪い人間どうしがおたがいにだましあうときに使います。
タヌキやキツネは、別のものに姿を変えることができると考えられていますが、うまく変えられずにしっぽを見せてしまうこともあったようです。それから生まれた語が、「しっぽを出す」です。しっぽを出してしまって正体がわかってしまうということですが、これから、かくしていたことやごまかしていたことがばれてしまうという意味で使います。
キツネもタヌキも「しっぽを出す」
「きつねにつままれる」という語もあります。「つままれる」は「だまされる」という意味です。この語は、ただキツネにだまされるという意味だけでなく、キツネにだまされたようによくわからないことが起きて、ぼんやりすることもいいます。「きつねにつままれた顔」などといいますが、何が起きたのかよくわからずにぼんやりとした顔つきのことです。
キツネの性質はずるいという印象があるため、「とらの威を借るきつね」という語もあります。「とら」は肉食の動物のトラのことです。ほかの動物よりも強いトラの力をたよって、自分は弱いのにいばる者のことをたとえた言い方です。
とらの威を借るきつね
タヌキは急におどかされると、死んだような状態になって動けなくなります。そのようなようすから、「たぬき寝入り」という語が生まれました。ほんとうはねむっていないのに、ねむっているふりをすることです。また、タヌキは頭を使ってずるいことをする動物だと考えられています。それから、そのようなずるくて年を取った男のことを悪く言った語に「たぬきおやじ」があります。「おやじ」は年取った男という意味です。
さらに、タヌキの性質とは関係ありませんが、「取らぬたぬきの皮算用」という語もあります。「算用」は、いくらなのか計算するという意味です。タヌキをまだつかまえていないのに、つかまえたつもりになってタヌキの皮をいくらで売ろうかと考えているということです。それから、手にいれられるかどうかわからないのに、手にいれたつもりになって計画を立てることをいいます。
キツネもタヌキも、日本語の中でたくさん活躍している動物なのです。
文:神永曉
画像:写真AC/イラストAC
(2024.6.14)
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