出汁とうま味
出汁は「和食の命」と言われるほど日本料理にとって大切なものです。おいしい料理を作るにはおいしい出汁が欠かせません。出汁の語源は「煮出し汁」で、辞書には「かつお節や昆布などを煮出して作る、うまみのある汁」とあります(「デジタル大辞泉」2021.4.10閲覧)。日本料理の出汁に使われる食材の代表的なものは昆布、かつお節、煮干し、干しシイタケなどです。出汁は料理にうま味成分を足し、風味を増し、料理全体の味を引き立たせる役をします。
「うま味」は現在は化学的に人間の舌が感じられる五つ目の味と認識されています。しかし、欧米がこれを認めたのは比較的最近のことです。従来、欧米では味覚の基本は四つ(甘味、酸味、塩味、苦味)とされていました(※)。1908年に池田菊苗という化学者が昆布に含まれるグルタミン酸の研究を通して発見した五つ目の味として「うま味」が加えられ、1980年代後半に世界的に知られるようになりました。旨い味、おいしい味という意味の「旨み、旨味」はdelicious tasteと英訳できますが、五つ目の味である「うま味」はumamiと表記されます。
西洋料理のスープストックや中国料理の湯(タン)も広い意味で「出汁」と言えます。材料は肉、魚、野菜が中心で、それらを長時間煮込んで味を作り出します。うま味成分も多く出ているのですが、その他の味を感じさせる成分が多く出ているので複雑な味になり、うま味成分を単体で味わうのは難しいかもしれません。一方、日本料理では、かつお節や昆布など出汁をとるための食品を使うことと、出汁をとるためにかかる時間が短いことが特徴と言えます。かつお節や昆布からはうま味成分が主に出て他の成分はあまり出ないため、出汁を飲むと「うま味」をしっかり感じることができます。出汁に少し塩を入れて飲んでみると、うま味を強く感じます。人が感じるうま味成分はグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の三つに大きく分けられます。グルタミン酸は昆布に多く含まれ、イノシン酸はかつお節や煮干し、グアニル酸は干しシイタケに多く含まれています。合わせ出汁によって異なるうま味成分を組み合わせることで、うま味を強く感じるようになります。
昆布・干しシイタケ・かつお節・煮干し
※ 胡椒や唐辛子、わさびなどから感じるいわゆる「辛味」は物理的な刺激であり、舌が感じる味覚(化学的な刺激)の一つには入っていません。