日本語を学ぶみなさんへ
私は長い間、国語辞典の編集の仕事をしてきました。国語は日本の言語、日本語のことです。つまり国語辞典は、日本人向けの日本語の辞典です。
私が編集に参加した辞典は、たとえば『日本国語大辞典』、『現代国語例解辞典』などです。
『日本国語大辞典』の語の数は約50万語で、日本最大の国語辞典です。この辞典は、世界最大のイギリスの辞典The Oxford English Dictionary(OED)を参考にして、編集されました。『現代国語例解辞典』(第五版)は、『日本国語大辞典』よりも語の数はずっと少なく、7.1万語です。
どの国で編集される辞典も同じでしょうが、辞典を編集するときには、最初に語の数をだいたい決めてから、その辞典にのせる語を集めていきます。語をどこから集めてくるのかというと、小説や評論などの本や、新聞、雑誌などからです。最近では、インターネットに書かれた文章から集めることもあります。
そして、集めた語を辞典にのせるかどうか話し合ってから、その語の意味を考えます。そのときに役に立つのが、実際に使われている文章です。その文章は、多ければ多いほど、意味を考えるときの参考になります。辞典によっては、実際に使われたその文章を語の意味といっしょに示すこともあります。OEDがそうですが、『日本国語大辞典』も同じようにしています。
語の中には、ひとつの語で多くの意味をもつものがあります。たとえばこの文章の中でも、「辞典にのせる語」と書きましたが、この「のせる」も多くの意味がある語です。「本を棚にのせる」と、「トラックに荷物をのせる」とでは意味が違うのです。「辞典にのせる」の「のせる」は、辞典にあることばを記録するという意味です。このいろいろある意味を考えるのはけっこうたいへんなのですが、私は大好きな仕事です。こんな意味でも使われているのかと、新しい発見があるからです。
辞典の編集は、一人でできるものではありません。大勢の人の協力が必要です。『日本国語大辞典』では、何百人もの人が編集に参加しました。大勢の人の手によって、それぞれの語の意味や使い方、書き方、そして動詞や名詞などの品詞の解説が加えられていくのです。
国語辞典は、ふだん日本語を使っている日本人のために編集されたものですので、日本語を勉強している人には、少し難しいところがあるかもしれません。でも、日本語を学ぶときには、とても役に立つものだと思います。
長い間、辞典の編集をしてきた者として、日本語を学んでいるみなさんに、辞典を読む楽しさと、日本語のおもしろさを、お伝えしていきたいと思っています。
文:神永曉
写真:フォトAC
(2022.4.1)